現在、私は司法修習生として法律事務所で研修中です。研修先の事務所は、家事事件(相続関係、離婚関係など)を多く扱っているため、今回は離婚について書きたいと思います。
●離婚とは
まず離婚というのは、法的に言うと婚姻関係の解消であり、将来的に婚姻の効果が失われるものです。言い換えると、夫婦でなくなり、この先は夫婦間の義務(扶養の義務等)や権利(相続権等)はなくなるということです。民法には「協議上の離婚」と「裁判上の離婚」があります。私が研修中にみた事件は、法律事務所で見たのですから、協議(当事者双方の話合いによる合意)ではうまくまとまらず、弁護士に依頼された事件ということになります。
依頼者の方が弁護士に相談に来られる場合、ほとんどの夫婦は既に夫婦関係は破綻していて、別居しています。そのため当事者は双方とも離婚そのものについては、納得していることが多いです。特に依頼者が妻の場合は、ほぼ100パーセントと言えます。夫については、依頼の段階でもまだなんとか元に戻れないかということを考えている人もたまにいますが…。
●離婚する時に揉めること
では、離婚する際に夫婦は何を揉めるのでしょう。
やはり親権、すなわち子どものことです。夫婦間に子供がいる場合には、離婚する際に親権者を決めなければなりません。この親権を争って依頼に来られる方がほとんどです。あとは財産分与と慰謝料です。もっとも、依頼の多くはそれほど財産のない人で、婚姻期間が短い夫婦が多いため、財産分与や慰謝料が問題になることはあまりありません。
●弁護士への依頼
ここで話が少しそれますが、お金に余裕がない人が弁護士に依頼できるのか、弁護士の依頼料はいくらくらいになるのか、気になる方も多いと思います。お金に余裕がない人は、法テラスという国の機関を利用することができます。そこを通して依頼すると、法テラスが依頼料を立て替えてくれます。このお金の返済は月に1万円や5000円程度の、あまり負担にならない範囲で分割払いできます。
弁護士への依頼料については、事件の深刻さ(後に述べるとおり、調停で済むのか、訴訟までいくのか)や、事務所によっても違うので明確に断言できませんが、着手金20万円、成功報酬30万円くらいでしょうか。
さて、依頼の内容に話を戻します。弁護士への依頼の内容の多くは、要するに親権がとりたいということです。特に争点となる親権を例に内容と手続きについてみていきましょう。
●親権とは
そもそも親権とは、法的には未成年者に対する親の権利義務の総称で、子を監護教育する身上監護権と、子の財産を管理する財産管理権からなるものです。そして親権は権利であると同時に義務でもあるのです。親権を夫婦のどちらに与えるかについては、子の福祉が最優先に考えられなければなりません。
これを前提として一般的に次の5つの項目が検討されます。
①子どもが、現状として当事者のどちら側にいるか(どちらと一緒に住んでいるか)
②母親優先
③子の意思尊重
④兄弟不分離
⑤離婚有責性
①については、現在住んでいる場所から子どもを移動させることは、子どもに大きな影響を与えるため重視され、できるだけ子どもの現在の環境を変えないようにと考えられます。もちろん、子どもの現在の環境が子どもにとって良い環境であるというのが前提にあります。ただし、これを利用して、離婚を覚悟した親が他方の親に無断で子どもを実家等に連れ帰り、「子どもと一緒に住んでいる」という現状を強制的に作り出すということも起こりえますので、どういう過程で現状になったのか、また現状がどれくらいの期間続いているかも考慮されます。
②は、乳幼児については特に重視されます。これは子育てをしたことのない私にはわかりませんが、経験則上そういうものかと思われます。しかし親族の支援で補うことも可能ともいえます(家族が子どもの面倒をみてくれる環境が整っている等)。また、そもそも子どもと母親との間に信頼関係がないような場合には、②は考慮されません。
③、④については、兄弟間に絆ができていると、兄弟を引き離すことは子の福祉に反する、という観点からできるだけ兄弟が一緒にいられるようにと考えられます。家庭裁判所の調査官が子どもに会って直接考えを聞くこともあります。
⑤については、有責者(不倫をした人や暴力を振るった人など)には通常、子に対する養育意欲もないと一般に考えられているため、親権については否定的に考慮されます。ただし、配偶者に対して問題となる不貞行為等と、子どもの養育は、直接的に結びつくものではありません。そこで不倫等について反省し、子についての養育意欲があることを積極的に示すことで離婚有責性が否定的に考慮されるのを防ぐこともできます。
このように、調停や裁判では、双方からいろいろと主張をし、また証拠を提出して、裁判所に判断してもらうことになります。そのため弁護士は、依頼者から上記のような内容をいろいろと聞き出さなければなりません。裁判では具体性が必要となります。そのため、夫婦のことや家庭内のことを赤裸々に語ってもらわなければならず、実際にこのヒアリングに立ち会ってみて、必要な情報をすべて聞き出すのは大変そうだと感じました。
● 手続きについて
手続きは、「調停」「審判」「訴訟」の順番です。調停には、弁護士のほかに裁判所から調停委員という専門家が参加します。調停では、一方の当事者(A)の考えをこの調停委員に伝え、それから調停委員が、他方の当事者(B)に一方の当事者(A)から聞いたことを伝え、今度はその他方の当事者(B)から考えを聞く、という流れを何度か繰り返して、円満な解決に導いていきます。当事者双方が望まない限り、当事者同士が直接話すことはありません。直接話すと、感情的になって話し合いにならなかったり、一方の当事者が相手に恐怖を感じていて適切な話し合いが望めなかったりする場合があるためです。期間は調停の開始から終了まで通常6ヶ月ほどです。調停委員の方はできる限り話しやすい雰囲気を作っていて、はじめは緊張していた依頼者の方もしっかりと主張できている、というのが調停を傍聴した感想です。
審判については必ずしも必要ではなく、すぐに裁判を申し立てることもできます。
調停が成立しなかった場合は、相手側に対して裁判で離婚を請求します。調停では話し合いの結果相手が同意しなければ離婚はできませんが、裁判では相手側が同意しなくても離婚が認められることになります(もちろん敗訴し、離婚が認められないこともあります)。通常の裁判は公開が原則ですが、離婚裁判は非公開ということもできます。
● 最後に
今回離婚(親権)について私の見たことをまとめてみましたが、依頼者の大半が「とにかく早く決着をつけてほしい」と言われます。しかしながら、調停はおおよそ1か月に1回という流れで行われるため長期間になってしまい、その間の依頼者の心労は大変なものと思われます。他方でその心労を和らげることが弁護士にはできるということにやりがいがあるなと感じました。
●離婚とは
まず離婚というのは、法的に言うと婚姻関係の解消であり、将来的に婚姻の効果が失われるものです。言い換えると、夫婦でなくなり、この先は夫婦間の義務(扶養の義務等)や権利(相続権等)はなくなるということです。民法には「協議上の離婚」と「裁判上の離婚」があります。私が研修中にみた事件は、法律事務所で見たのですから、協議(当事者双方の話合いによる合意)ではうまくまとまらず、弁護士に依頼された事件ということになります。
依頼者の方が弁護士に相談に来られる場合、ほとんどの夫婦は既に夫婦関係は破綻していて、別居しています。そのため当事者は双方とも離婚そのものについては、納得していることが多いです。特に依頼者が妻の場合は、ほぼ100パーセントと言えます。夫については、依頼の段階でもまだなんとか元に戻れないかということを考えている人もたまにいますが…。
●離婚する時に揉めること
では、離婚する際に夫婦は何を揉めるのでしょう。
やはり親権、すなわち子どものことです。夫婦間に子供がいる場合には、離婚する際に親権者を決めなければなりません。この親権を争って依頼に来られる方がほとんどです。あとは財産分与と慰謝料です。もっとも、依頼の多くはそれほど財産のない人で、婚姻期間が短い夫婦が多いため、財産分与や慰謝料が問題になることはあまりありません。
●弁護士への依頼
ここで話が少しそれますが、お金に余裕がない人が弁護士に依頼できるのか、弁護士の依頼料はいくらくらいになるのか、気になる方も多いと思います。お金に余裕がない人は、法テラスという国の機関を利用することができます。そこを通して依頼すると、法テラスが依頼料を立て替えてくれます。このお金の返済は月に1万円や5000円程度の、あまり負担にならない範囲で分割払いできます。
弁護士への依頼料については、事件の深刻さ(後に述べるとおり、調停で済むのか、訴訟までいくのか)や、事務所によっても違うので明確に断言できませんが、着手金20万円、成功報酬30万円くらいでしょうか。
さて、依頼の内容に話を戻します。弁護士への依頼の内容の多くは、要するに親権がとりたいということです。特に争点となる親権を例に内容と手続きについてみていきましょう。
●親権とは
そもそも親権とは、法的には未成年者に対する親の権利義務の総称で、子を監護教育する身上監護権と、子の財産を管理する財産管理権からなるものです。そして親権は権利であると同時に義務でもあるのです。親権を夫婦のどちらに与えるかについては、子の福祉が最優先に考えられなければなりません。
これを前提として一般的に次の5つの項目が検討されます。
①子どもが、現状として当事者のどちら側にいるか(どちらと一緒に住んでいるか)
②母親優先
③子の意思尊重
④兄弟不分離
⑤離婚有責性
①については、現在住んでいる場所から子どもを移動させることは、子どもに大きな影響を与えるため重視され、できるだけ子どもの現在の環境を変えないようにと考えられます。もちろん、子どもの現在の環境が子どもにとって良い環境であるというのが前提にあります。ただし、これを利用して、離婚を覚悟した親が他方の親に無断で子どもを実家等に連れ帰り、「子どもと一緒に住んでいる」という現状を強制的に作り出すということも起こりえますので、どういう過程で現状になったのか、また現状がどれくらいの期間続いているかも考慮されます。
②は、乳幼児については特に重視されます。これは子育てをしたことのない私にはわかりませんが、経験則上そういうものかと思われます。しかし親族の支援で補うことも可能ともいえます(家族が子どもの面倒をみてくれる環境が整っている等)。また、そもそも子どもと母親との間に信頼関係がないような場合には、②は考慮されません。
③、④については、兄弟間に絆ができていると、兄弟を引き離すことは子の福祉に反する、という観点からできるだけ兄弟が一緒にいられるようにと考えられます。家庭裁判所の調査官が子どもに会って直接考えを聞くこともあります。
⑤については、有責者(不倫をした人や暴力を振るった人など)には通常、子に対する養育意欲もないと一般に考えられているため、親権については否定的に考慮されます。ただし、配偶者に対して問題となる不貞行為等と、子どもの養育は、直接的に結びつくものではありません。そこで不倫等について反省し、子についての養育意欲があることを積極的に示すことで離婚有責性が否定的に考慮されるのを防ぐこともできます。
このように、調停や裁判では、双方からいろいろと主張をし、また証拠を提出して、裁判所に判断してもらうことになります。そのため弁護士は、依頼者から上記のような内容をいろいろと聞き出さなければなりません。裁判では具体性が必要となります。そのため、夫婦のことや家庭内のことを赤裸々に語ってもらわなければならず、実際にこのヒアリングに立ち会ってみて、必要な情報をすべて聞き出すのは大変そうだと感じました。
● 手続きについて
手続きは、「調停」「審判」「訴訟」の順番です。調停には、弁護士のほかに裁判所から調停委員という専門家が参加します。調停では、一方の当事者(A)の考えをこの調停委員に伝え、それから調停委員が、他方の当事者(B)に一方の当事者(A)から聞いたことを伝え、今度はその他方の当事者(B)から考えを聞く、という流れを何度か繰り返して、円満な解決に導いていきます。当事者双方が望まない限り、当事者同士が直接話すことはありません。直接話すと、感情的になって話し合いにならなかったり、一方の当事者が相手に恐怖を感じていて適切な話し合いが望めなかったりする場合があるためです。期間は調停の開始から終了まで通常6ヶ月ほどです。調停委員の方はできる限り話しやすい雰囲気を作っていて、はじめは緊張していた依頼者の方もしっかりと主張できている、というのが調停を傍聴した感想です。
審判については必ずしも必要ではなく、すぐに裁判を申し立てることもできます。
調停が成立しなかった場合は、相手側に対して裁判で離婚を請求します。調停では話し合いの結果相手が同意しなければ離婚はできませんが、裁判では相手側が同意しなくても離婚が認められることになります(もちろん敗訴し、離婚が認められないこともあります)。通常の裁判は公開が原則ですが、離婚裁判は非公開ということもできます。
● 最後に
今回離婚(親権)について私の見たことをまとめてみましたが、依頼者の大半が「とにかく早く決着をつけてほしい」と言われます。しかしながら、調停はおおよそ1か月に1回という流れで行われるため長期間になってしまい、その間の依頼者の心労は大変なものと思われます。他方でその心労を和らげることが弁護士にはできるということにやりがいがあるなと感じました。
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